これからの働き方に関する大事な話 〜 政府が進める新しい資本主義実現会議で論じられている、あんなこと・こんなこと 〜

こんにちは、Gene-K(@SmileWork_LAB)です。

政府が進める新しい資本主義の実現に向けて、その方向性を定めるにあたっての有識者会議(新しい資本主義実現会議)が行われています。

その方向性のポイント(課題と解決策)を策定し、指針としてまとめられたものが「三位一体の労働市場改革の指針(案)」として内閣官房HPで公表(2023年5月16日)されています。

政府が求める「これからの働き方」について、かなり踏み込んだ具体的な考え方が記載されています。その資料からポイントとなる要旨を抜粋し、確認しておきたいと思います。

1.基本的考え方

働き方は大きく変化している。「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となってきた。職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要である。そうすることにより、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、社外からの経験者採用にも門戸を開き、労働者が自らの選択によって、社内・社外共に労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務である

三位一体の労働市場改革の指針(案)

「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となってきた。”と、あたかも時代の流れのようにそうなってきたと言ってる感じがしますが、そのように仕向けているのは政府です。日本経済成長のためのジリ貧の国策として「労働移動」を促していると理解しておく必要があります。

これまでの我が国の賃金水準は、長期にわたり低迷してきた(先進国の1人あたり実質賃金の推移を見ると、1991 年から 2021 年にかけて、米国は 1.52 倍、英国は 1.51 倍、フランスとドイツは 1.34 倍に上昇しているのに対して、日本は 1.05 倍)。この間、企業は人に十分な投資を行わず、個人は十分な自己啓発を行わない状況が継続してきた。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

諸外国と比べて賃金水準が低いのは、企業と労働者の責任と読み取れます。残念ながら、そのようになった背景(政府の政策の失態)はまったく触れられていません。

企業を主体とした自由経済を前提にした資本主義には限界があり、政府が進める新しい資本主義の実現が必要だとしています。これって本当に資本主義?とその定義すら分からなくなってきます。

GXやDXなどの新たな潮流は、必要とされるスキルや労働需要を大きく変化させる。人生100年時代に入り就労期間が長期化する一方で、様々な産業の勃興・衰退のサイクルが短期間で進む中、誰しもが生涯を通じて新たなスキルの獲得に務める必要がある。他方で、現実には、働く個人の多くが受け身の姿勢で現在の状況に安住しがちであるとの指摘もある。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

人生100年時代に入り就労期間が長期化する一方で” とありますが、年金政策等社会保障制度の失策により、100歳まで働かざるを得なくなったわけです。その結果、死ぬまでスキルアップし、死ぬまで働く必要があるということです。高い社会保険料を納めても、悲しいかな、年金をあてにした穏やかな老後生活はどこへやら。

現役労働者は、受け身の姿勢で現状に安住している、だから日本経済はダメなんだ!と辛辣に否定までしています。人手不足、長時間労働、過労死、低賃金、非正規雇用、ブラック企業等々長く問題が放置されている中で、これは、なかなか攻めた意見です。政治に対する国民の無関心さがこうした発言が生じてしまうのでしょう。このような指摘をする有識者⁈ とは、一体誰なんでしょうか?気になりますね。

この問題の背景には、年功賃金制などの戦後に形成された雇用システムがある。職務(ジョブ)やこれに要求されるスキルの基準も不明瞭なため、評価・賃金の客観性と透明性が十分確保されておらず、個人がどう頑張ったら報われるかが分かりにくいため、エンゲージメントが低いことに加え、転職しにくく、転職したとしても給料アップにつながりにくかった。また、やる気があっても、スキルアップや学ぶ機会へのアクセスの公平性が十分確保されていない。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

ここからが本題の「労働移動(転職等)」について言及してきます。転職ありきの働き方へと導いていきます。企業の年功賃金制など人事制度の問題とエンゲージメントの低さがその問題の根底にあると指摘しています。

人口減少による労働供給制約の中で、こうしたシステムを変革し、希望する個人が、雇用形態、年齢、性別、障害の有無を問わず、将来の労働市場の状況やその中での働き方の選択肢を把握しながら、生涯を通じて自らの生き方・働き方を選択でき、自らの意思で、企業内での昇任・昇給や企業外への転職による処遇改善、更にはスタートアップ等への労働移動機会の実現のために主体的に学び、報われる社会をつくっていく必要がある。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

転職や起業による処遇改善とキャリア形成のススメです。

企業内での処遇改善(昇給等)が期待できない、または十分でない場合は、転職や起業で改善を図ることも長期的なキャリア形成を考えるうえで必要だとしています。

企業側の変革も待ったなしである。企業が人への十分な投資を行っていない間に、諸外国との賃金格差は拡大し、先進諸国間のみならず、アジアにおける人材獲得競争でも劣後するようになっているおそれがある。グローバル市場で競争している業種・企業を中心に、人材獲得競争の観点からジョブ型の人事制度を導入する企業等も増えつつあるが、そのスピードは十分ではなく、人的資本こそ企業価値向上の鍵との認識の下、変化への対応を急ぎ、人への投資を抜本強化する必要がある。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

政府の無策が生んだ失われた30年の間に日本から実に多くの事が失われました。賃金格差もそうです。この、諸外国との賃金格差是正のためには「ジョブ型の人事制度」へと早急に転換する必要があるとしています。

優秀な人材の海外流出、海外の優秀な人材の採用難を日本の競争力強化の支障になっているということですが、ジョブ型の導入だけでは解決できそうにありません。ハラスメントや多様な働き方の問題など、根本的な「働きやすさ(安心・信頼)」の確保がまず必要だと思います。

こうした変革においては、働き手と企業の関係も、対等に「選び、選ばれる」関係へと変化する。一人ひとりが主役となって、キャリアは会社から与えられるものから、一人ひとりが自らの意思でキャリアを築き上げる時代へと、官民の連携の下、変えていく必要がある。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

例えば、ジョブ型の人事制度(処遇改善)へ移行できないような経営体力のない企業は、労働者から選ばれず、自然淘汰されるという考え方です。そもそも人材不足・採用難の続く中小企業には厳しい方針です。企業淘汰による大企業中心の経済環境へと移行したいという政府の思いが見え隠れしています。日本経済を支える中小企業の支援策に注視していく必要があります。

このため、リ・スキリングによる能力向上支援個々の企業の実態に応じた職務給の導入成長分野への労働移動の円滑化、の三位一体の労働市場改革を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることが急務である。これにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていく。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

政府の言う「三位一体」とは、リ・スキリングによる能力向上支援(学び直し個々の企業の実態に応じた職務給の導入(同一労働同一賃金成長分野への労働移動の円滑化(転職促進ということです。したがって、大筋は、労働者にとって悪い話ではありません。問題は、すべての企業が、同じ考え方で改革に取り組むことができるかどうかです。でなければ、さらなる格差問題が生じることは容易に想像できます。

〇 また、構造的賃上げを行っていくためには、我が国の雇用とGDPの7割を占める地方、中小・小規模企業の対応も鍵となる。三位一体の労働市場改革と並行して、3月15日の政労使の意見交換でも基本的な合意があったように、「中小・小規模企業の賃上げには労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠である」という考え方を社会全体で共有し、賃上げの原資を確保し、成長と“賃金上昇”の好循環を実現する価格転嫁対策を徹底する必要がある。

あわせて、こうした取組と生産性向上支援の取組を通じて、地域の人手不足対策や、働く個人が安心して暮らすことができる最低賃金の引上げを実現する。

〇 これらの改革に、官民を挙げて、大胆に取り組むことを通じて、国際的にも競争力のある労働市場をつくっていく。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

指針の中では「最低賃金の引き上げ」も明言しています。これはインパクトが大きいです。企業にも労働者にとっても。

以上、基本的考え方については、どれも政府の考え方を知るうえで重要な内容です。

2.目標

〇 三位一体の労働市場改革を進めることで、構造的賃上げを通じ、同じ職務であるにもかかわらず、日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差を、国毎の経済事情の差を勘案しつつ、縮小することを目指す。併せて、性別、年齢等による賃金格差の解消を目指す

〇 また、我が国の場合、これまでは転職前後の賃金を比較すると、転職後に賃金が減少する傾向が見られた。内部労働市場と外部労働市場の形成とそのシームレスな接続により、転職により賃金が増加する者の割合が減少する者の割合を上回ることを目指す

〇 官民でこれらの進捗状況を確認しつつ、改革の取組を進める。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

目標はあくまでも目標ですが、「転職により賃金が増加する者の割合が減少する者の割合を上回ることを目指す」というのは、転職で人が集まる企業と、転職で辞める人が増える企業と明暗がハッキリ分かれるワケです。経営者にとってはシビアな目標になると思います。それも政府の狙いなワケでしょうが。

3.指針の方向性

三位一体の労働市場改革を進めるに当たり、その前提として、在職中からのリ・スキリング支援やコンサルティング・助言機能の強化等を含めて雇用のセーフティネット機能を確保・拡充していくことが重要であり、民間の力も活用しつつ、官民一体となったリ・スキリングやマッチング機能の強化が求められる。その際、以下の3つの視点が重要となる。

企業内の人事・賃金制度の改革などにより内部労働市場が活性化されてこそ、外部労働市場、すなわち労働市場全体も活性化する。人的資本こそ企業価値向上の鍵との認識の下、個々の企業の実態に応じて、労使による企業内の人事・賃金制度の見直しを中核に位置付けつつ、労働移動に対する不安感等を徐々に払拭するとともに、人への投資の抜本強化などを通じて仮に転職しても将来戻ってきてもらえるような人材を惹きつける企業を増やしていく。

今回の改革は、我が国の雇用慣行の実態が変わりつつある中で、働く個人にとっての雇用の安定性を新たな形で保全しつつ、構造的賃上げを実現しようとするものである。働く個人の立場に立って、円滑な労働移動の確保等を通じ、多様なキャリアや処遇の選択肢の提供を確保する。

こうした改革を中小・小規模企業の成長機会にもつなげていく。大企業内の人事制度が柔軟なものになれば、例えば、一定期間の中小・小規模企業への出向や副業・兼業等を通じた経験がスキルとして客観的に認識されるようになり、大企業と中小・小規模企業間の人材交流が活発化し、人手不足に直面する地域の中小・小規模企業の人材支援にもつながる。併せて労務費等の価格転嫁対策を徹底的に講じることにより、中小・小規模企業の収益確保に万全を期すとともに、賃上げにつなげていく。また、リ・スキリングなどに関する支援の充実により、経済格差が教育格差を生む負のスパイラルを断ち切り、全ての人が生きがいを感じられる社会をつくることにつなげる。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

人事・賃金制度の見直しにより、賃金が下がることなく、大企業・中小企業を問わず、不安なく転職(副業)できるようにすることを目標としています。賃金が下がることがないように「同一労働同一賃金」の徹底が現に行われています。この「同一労働同一賃金」については、社内に正規・非正規のそれより、派遣労働者の同一労働同一賃金の考え方を活用してくるのではないかと考えられます。(厚生労働省:派遣労働者の同一労働同一賃金について

〇 上記の視点を踏まえつつ、以下の改革を三位一体で進めることとする。

① リ・スキリングによる能力向上支援
② 個々の企業の実態に応じた職務給の導入
③ 成長分野への労働移動の円滑化

〇 あわせて、多様性の尊重と格差の是正を重点事項として掲げ、最低賃金の引上げ労務費の適正な転嫁を通じた取引適正化正規雇用労働者・非正規雇用労働者間等の同一労働・同一賃金制の施行の徹底中小・小規模企業労働者のリ・スキリングの環境整備キャリア教育の充実等の取組を一体的に進めることとする。

〇 この際、こうした改革には時間を要するものも含まれることから、一定期間ごとに官民でその進捗を確認し、時間軸を共有しながら、計画的に見直しを行っていく。

〇 また、改革への対応は、業種別にも大きく異なることが想定されることから、業所管省庁との連携により、きめ細やかに対応を行う。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

4.リ・スキリングによる能力向上支援

(1)個人への直接支援の拡充

国の在職者への学び直し支援策は、企業経由が中心となっており、現在、企業経由が 75%(771 億円(人材開発支援助成金、公共職業訓練(在職者訓練)、生産性向上人材育成支援センターの運営費交付金))、個人経由が 25%(237 億円(教育訓練給付))となっている。これについては、働く個人が主体的に選択可能となるよう、5年以内を目途に、効果を検証しつつ、過半が個人経由での給付が可能となるようにし、在職者のリ・スキリングの受講者の割合を高めていく。

〇 その際、業種を問わず適用可能な科目についてのリ・スキリングが、労働者の中長期的なキャリア形成に有効との先進諸国での経験を踏まえ、民間教育会社が実施するトレーニング・コースや大学が実施する学位授与プログラムなどを含め、業種・企業を問わずスキルの証明が可能な Off-JTでの学び直しに、より重点を置く

〇 業種・企業を問わず個人が習得したスキルの履歴の可視化を可能とする一助として、デジタル上での資格情報の認証・表示の仕組み(オープンバッジ)の活用の推奨を図る。

雇用保険の教育訓練給付に関しては、高い賃金が獲得できる分野、高いエンプロイアビリティの向上が期待される分野(IT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメント、技術研究、営業/マーケティング、経営・企画、観光・物流など)について、リ・スキリングのプログラムを受講する場合の補助率や補助上限について、拡充を検討することとし、具体的な制度設計を行う。

〇 特に今般拡充する部分については、在職者を含め労働者が自身の有するノウハウやスキル、本人の意向に応じて、リ・スキリングプログラムを受ける内容、進め方を、コンサルティングを受けながら適切に選択できるように、ハローワーク、職業訓練校などで、事前に在職者へのコンサルティングとリ・スキリングの内容の妥当性の確認を行うこととする。キャリアコンサルタントの役割の強化を図り、将来的には、民間に在籍するキャリアコンサルタントの一部にも、支援措置の妥当性の確認の役割を担わせる可否の検討を進める。

〇 教育訓練給付の受給に係る手続について、オンラインを活用して受給までの効率化を図る

〇 企業経由の支援策についても、その中身を見直しつつ、必要なものについては充実させることを検討する。この際、企業内でも訓練機会に乏しい非正規雇用労働者等について、働きながらでも学びやすく、自らの希望に応じたキャリアアップにつながる柔軟な日時や実施方法によるリ・スキリング支援を実施する。フリーランスの方々にも、柔軟で多様な訓練機会を提供する。

〇 2033 年までに日本人学生の海外留学者数 50 万人という新たな目標の実現に向けた取組の中で、最近低調となっている社会人の海外大学院への留学を促進する。その際、在職者には時間的制約があることも考慮し、オンライン留学の取組も進める

三位一体の労働市場改革の指針(案)

政府が考える成長産業に必要な人材とは、「高い賃金が獲得できる分野、高いエンプロイアビリティの向上が期待される分野(IT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメント、技術研究、営業/マーケティング、経営・企画、観光・物流など」と定義しています。「1.基本的な考え方」にもありました「GXやDX」もこれにあてはまります。これらは、これからの日本社会で求められるスキルということです。

そして、この分野の人材育成は、企業内での学び直しでは不十分であるという判断から、企業に頼ることなく個人が自らの意志で学び直しをする(社外のキャリアコンサルタントに相談できる体制を整備する)ことに支援し、さらには、フリーランスにもその学びの機会を拡大していくということです。企業内の就業を通しての研修ではなく、仕事を離れてのOff-JTでの学び直しに重点を置くということは、企業におけるこれから教育研修のあり方にも影響を及ぼしそうです。

(2)日本企業の人への投資の強化の必要性

〇 日本企業の人への投資(OJT を除く)は、2010 年から 2014 年に対 GDP 比で 0.1%にとどまり、米国(2.08%)やフランス(1.78%)などの先進諸国に比べても低い水準にある。かつ、近年、更に低下傾向にある。今後、人口減少により労働供給制約が強まる中、人への投資を行わない企業は、ますます優秀な人材を獲得できなくなり、それは企業価値や競争力の弱体化に直結することを認識しなければならない。

〇 他方で、諸外国の経験を見ると、人への投資を充実した企業においては、離職率の上昇は見られず、むしろ、自分を育てる機会を得られるとして、優秀な人材を惹きつけることが可能となっている。

このため、企業自身が、働く個人へのリ・スキリング支援強化を図る必要があることを肝に銘じる必要がある。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

企業に対する厳しい提言がされています。ここに反応できる経営者かそうでないかで差が出てきそうです。皆さんのお勤め先の対応をしっかりウオッチしていくことを強くオススメします。就職(新卒の就活)・転職の際の「会社の見方」の重要なポイントでもあります。

(3)「人への投資」施策パッケージのフォローアップと施策見直し

〇 本指針を踏まえ、パッケージの各支援策が労働者にとってより利用しやすいものとなるよう、毎年度パッケージの実施状況をフォローアップし、その結果を翌年度の予算内容へと反映する。

〇 あわせて、受講後の処遇改善・社内外への昇進・登用に与える効果について計測し、分析を行い、施策の改善に生かす。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

(4)雇用調整助成金の見直し

〇 現在の雇用調整助成金は、教育訓練、出向、休業のいずれかの形態で雇用調整を行うことによる費用を助成する制度である(大企業は 1/2、中小・小規模企業は 2/3 を助成。教育訓練による雇用調整の場合は 1 人 1 日あたり 1,200 円を追加支給)。

〇 本制度は、リーマンショック、コロナ禍等の急激な経済情勢の悪化に対する雇用維持策として重要な役割を果たしたが、助成が長期にわたり継続する場合、労働者の職業能力の維持・向上や成長分野への円滑な労働移動を阻害するおそれがあるとの指摘もある

〇 このため、在職者によるリ・スキリングを強化するため、休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくするよう、助成率等の見直しを行う。教育訓練・休業による雇用調整の場合、給付期間は1年間で100日まで、3年間で150日までであるが、例えば30日を超えるような雇用調整となる場合には、教育訓練を求めることを原則とし、例外的にその日以降に休業によって雇用調整を行う場合は助成率を引き下げるなどの見直しを検討する。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

コロナ禍とは関係なく労働者のセーフティーネットとしての休業に対する雇用調整率を下げる改定はなく、教育訓練の助成率を単に引き上げるものと解釈したいです。財源不足で、教育訓練の助成率を上げて、その分、休職時の助成率を下げることがもしあるとしたら、雇用保険の意義(雇用の安定)を逸脱する荒業になりますので。財源確保の際は、企業側の雇用保険率を上げるなどが適正と思います。

(5)デジタル分野などの認定講座の拡充

デジタル分野へのリ・スキリングを強化するため、専門実践教育訓練について、デジタル関係講座数(179 講座(2023年 4 月時点))を、2025 年度末までに 300 講座以上に拡大する。その際、生成AIなど、今後成長が期待され、今の時代に即した分野に関する講座の充実を図る

三位一体の労働市場改革の指針(案)

DX人材の育成が急務な事情が具体的に反映された内容です。ChatGPT、Bing、Bardなど生成Ai の分野を重点方針にしている点でも、いかに諸外国とのIT/DX 格差が大きいのか、その危機感を感じます。

なぜ「ⅮX人材(デジタル人材)」なのか? 政府の政策から読み取る、これからの時代に必要なスキルとキャリア、マインドについて

(6)給与所得控除におけるリ・スキリング費用の控除の仕組みの柔軟化

給与所得控除におけるリ・スキリング費用の控除の仕組み(特定支出控除)について、勤務先企業だけでなく、キャリアコンサルタントも、そのリ・スキリングが職務に関連する旨の証明を行えるように改正した。新制度の活用状況も見ながら、更なる制度の柔軟化を検討する。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

キャリアコンサルタントという職種の必要性が、今後ますます高まることが想定されます。こちらも労働者派遣事業に関する法律の定めに倣って、将来的に、社内外にキャリアコンサルタントを配置することを義務化することも考えられます。

5.個々の企業の実態に応じた職務給の導入

(1)職務給の個々の企業の実態に合った導入

職務給の個々の企業の実態に合った導入等による構造的賃上げを通じ、同じ職務であるにもかかわらず、日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差を、国毎の経済事情の差を勘案しつつ、縮小することを目指す

〇 今後年内に、職務給(ジョブ型人事)の日本企業の人材確保の上での目的、ジョブの整理・括り方、これらに基づく人材の配置・育成・評価方法、ポスティング制度、リ・スキリングの方法、従業員のパフォーマンス改善計画(PIP)、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係、休暇制度などについて、事例を整理し、個々の企業が制度の導入を行うために参考となるよう、多様なモデルを示す。この際、個々の企業の実態は異なるので、企業の実態に合った改革が行えるよう、自由度を持ったものとする。中小・小規模企業等の導入事例も紹介する
また、ジョブ型人事(職務給)の導入を行う場合においても、順次導入、あるいは、その適用に当たっても、スキルだけでなく個々人のパフォーマンスや適格性を勘案することも、あり得ることを併せて示す。

〇 以下、本指針においても、いくつかの導入事例を示すが、さらに多様なモデルを示すため、既述のとおり、年内に、個々の企業が具体的に参考にできるよう、事例集を、民間企業実務者を中心とした分科会で取りまとめる。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

個々の企業の実態は異なるものの、大企業・中小企業の規模を問わず、人事・賃金制度にジョブ型人事(職務給)を導入することが政府の重点実施事項とされています。

ポイント

ジョブ型人事については、各企業の経営戦略や人事方針に基づき導入のメリット・デメリットをしっかり検証し見極める必要があります。自社の強みがジョブ型ではなく、従来型の人事制度にあるのであれば、あえてジョブ型を導入せず、他社との差別化を図る選択も十分あると思います。

(2)給与制度・雇用制度の透明性の確保

給与制度・雇用制度の考え方、状況を資本市場や労働市場に対して可視化するため、情報開示を引き続き進める。

〇 また、企業が有価証券報告書や統合報告書等に記載を行う際に参考となる「人的資本可視化指針」(昨年 8 月策定)についても、本指針の内容を踏まえ、年内に改訂する。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

(1)職務給の個々の企業の実態に合った導入の実行性を高めるため、各企業の人事・賃金制度、雇用制度の考え方について、企業のホームページや厚生労働省のサイトで公表することを義務化していくことが予想されます。すでに公表を義務化されている他の情報のように、厚生労働省が運営する職場情報提供サイト(しょくばらぼ)などを活用して。

(3)いくつかの導入事例

〇 職務給(ジョブ型人事)を導入している企業の導入事例をいくつか示す。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

職務給(ジョブ型人事)の導入事例が匿名でいくつか例示されています。ただし、日本の多くの企業での職務給(ジョブ型人事)の導入はまだ限定的だと思われます。ここに掲載されている企業の多くは、グローバル経営を行う上でやむなく職務給(ジョブ型人事)を導入せざるを得ないグローバルなビジネス展開を行う大企業が中心だと思われます。

ポイント

職務給(ジョブ型人事)の導入は、単なる人事システムの変更ではなく、経営方針と組織の変革といえます。変革について労使で十分な議論と理解のないまま導入すると取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。自社に職務給(ジョブ型人事)を導入するメリットがあるのかないのか?単なるトレンドや流行り(同業他社がやるから自社もやる)のような感覚で導入するにはリスクが大きすぎる問題です。経営陣の動向(言動)を注視しておく必要があります。

6.成長分野への労働移動の円滑化

(1)失業給付制度の見直し

〇 自らの選択による労働移動の円滑化という観点から失業給付制度を見ると、自己都合で離職する場合は、求職申込後2か月ないし3か月は失業給付を受給できないと、会社都合で離職する場合と異なる要件となっている。失業給付の申請時点から遡って例えば1年以内にリ・スキリングに取り組んでいた場合などについて会社都合の場合と同じ扱いとするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

退職した際、ハローワーク(職安)から給付を受ける、いわゆる失業保険(失業給付)の見直しです。

転職など自己都合退職の場合は、会社都合の退職と異なり2か月から3か月の待機後にしか給付を受けることができません。雇用保険の加入者でありながら退職の理由だけで必要な生活保障がされないという問題が長く放置されたままでした。元々賃金が低く、退職金も少ない(ない)若者世代にとっての転職は、在職中に転職先を決めて、勤務期間に切れ目のないようにすることで生活の安定を図る必要があり、状況によってはそれが焦りとなり、巧みな求人の罠を仕掛けるブラック企業へと転職を繰り返してしてしまうという問題が生じたりします。

雇用保険(失業給付)だけでなく、健康保険・年金保険等の社会保険の負担も軽減できる措置を検討すべきだと思います。

(2)退職所得課税制度等の見直し

退職所得課税については、勤続 20 年を境に、勤続1年あたりの控除額が 40 万円から 70 万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。

〇 個人が掛金を拠出・運用し、転職時に年金資産を持ち運びできる iDeCo(個人型確定拠出年金)について、拠出限度額の引上げ及び受給開始年齢の上限の引上げについて、2024 年の公的年金の財政検証に併せて結論を得る。

三位一体の労働市場改革の指針(案)
ポイント

退職金制度の税制優遇措置が労働移動(転職)を阻害しているということです。これはかなり強引な発想で怖いです。ホントでしょうか??

というのは、そもそも退職金の税額計算の仕組み知っている人がまず超少数である点。さらに、20年勤めれば控除額が増えるから、それを理由に転職しないと考える人はさらに少ないと思われます。どこからこの指摘があったのか根拠に基づいた説明が必要です。これは、勤労者の生活を脅かす危険な税法改正(改悪)になってしまいます。

日本の多くの退職金制度は、人事・賃金制度と深く関係しています。退職金は長く勤務したことに対する恩恵的なものばかりではなく、むしろ、若い世代の勤務に対する賃金の一部を退職金の原資として積み立てて支給する、賃金の後払い的な性格を有するものです。日本の賃金が低い(とくに若者世代)理由は、ここにも要因があります。

したがって、現行の退職金制度のまま税制度を変更し退職金が減額することは、後払い賃金が減額されるということになります。この点についてを考慮したうえで検討すべき事項だと思います。

(3)自己都合退職に対する障壁の除去

民間企業の例でも、一部の企業の自己都合退職の場合の退職金の減額、勤続年数・年齢が一定基準以下であれば退職金を不支給、といった労働慣行の見直しが必要になりうる。

〇 その背景の一つに、厚生労働省が定める「モデル就業規則」において、退職金の勤続年数による制限、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取り扱いが例示されていることが影響しているとの指摘があることから、このモデル就業規則を改正する。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

勤続3年未満の自己都合退職の場合、退職金は不支給としていたり、定年退職前までに自己都合退職をすると支給額が減額される仕組みは珍しくありません。これは日本古来の雇用慣習が深く関係しています。

入社3年以内の転職。いまの時代、石の上にも3年って? 

会社都合退職者と異なる取り扱いの云々ということより、そもそも退職金制度の考え方を見直す必要があると思います。というのも、政府が推進する職務給(ジョブ型人事)の導入は単に賃金制度に関することだけでなく、採用から退職に至る人事のすべてに関わる重要な要素であり、全体のシステムに一体感がなくては十分機能しなくなります。

就業規則も然りです。ピンポイントで一部改定するのではなく、全体の関連性に統一感がなくては絵に描いた餅で終わってしまいます。

(4)求人・求職・キャリアアップに関する官民情報の共有化

成長分野への円滑な労働移動のため、求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約し、共有して、キャリアコンサルタント(現在 6.4 万人)が、その基礎的情報に基づき、働く方々のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制を整備する

〇 このため、① ハローワークの保有する「求人・求職情報」を加工して集約し、② 民間人材会社の保有する「求人情報」のうち、職種・地域ごとに、求人件数・(求人の)賃金動向・必要となるスキルについて、求人情報を匿名化して集約することとし、その方法については、人材サービス産業協議会の場において検討を行う。③ 民間の協議会・ハローワーク等に情報を集約し、一定の要件を満たすキャリアコンサルタントに基礎的情報を提供することとする。④ 官においては、ハローワークにおいて、キャリアコンサルティング部門の体制強化などのコンサルティング機能を強化し、在職時からの継続的な相談支援の充実を図る

〇 これらにより、デンマークなどにおけるフレキシキュリティの一環で行われている取組のように、官民で働く一定の要件を満たすキャリアコンサルタントが、職種・地域ごとに、キャリアアップを考える在職者や求職者に対して、転職やキャリアアップに関して客観的なデータに基づいた助言・コンサルを行うことが可能となる。
※ デンマークでは、政府が、賃金、求人といった客観的な指標を民間から集め、各職種の見通しを、緑・黄・赤といった形で半年ごとに明示。デンマークのケースワーカーはこれを参考に、良い職業に移動できるように労働者を指導する。失業給付等の補助金の支給にあたっても、ケースワーカーのコンサルを受ける。ケースワーカーの経歴は様々だが、IT 技術を有し、指導についてのリ・スキリングを受けた者が選ばれている。

〇 公共職業訓練制度については、申請のオンライン化やハローワークの就職データの活用による民間教育訓練事業者の業務の効率化を推進するとともに、現場の民間教育訓練事業者からの意見を直接聴取する仕組みの導入等を速やかに実現する。

〇 また、ハローワークにおいて推薦する職種について、転職前後の賃金を補足・比較する方法を検討する。その上で、転職前後の賃金上昇可能性やその後の熟練度に応じた更なる上昇可能性まで考慮に入れた推薦が行われるよう、制度の運営改善を行う。

〇 なお、求職者が中小・小規模企業を選択肢の一つとして検討できるように、個々の中小・小規模企業の強みや魅力についての定性的情報をキャリアコンサルタントが求職者に対し効果的に提供する方途について検討を行う。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

キャリアコンサルタントの質が問われます。官民が一体になって、高いレベルのキャリアコンサルタントを育成し、どのキャリアコンサルタントからキャリアコンサルティングを受けても同じ質のサービスを受けれることが重要です。

(5)副業・兼業の奨励

成長分野への円滑な労働移動を図るための端緒としても、副業・兼業を奨励する。このため、副業・兼業人材を受け入れる企業又は送り出す企業への支援など、労働者個人が新たなキャリアに安心して移行できるようにするためのトライアル環境を整備する。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

政府が、副業・兼業を解禁し、進める理由の背景に成長分野へのトライアルを容易にすることもあるワケです。しかし、副業・兼業についてまだ保守的で消極的な企業が多いのが実情です。

働き方の新常識:政府(国策)による副業・兼業のススメ

(6)厚生労働省関係の情報インフラ整備

〇 厚生労働省が運営する職場情報提供サイト(しょくばらぼ)の機能強化と利用促進を図る。また、日本版 O-NET(job tag)の機能強化と多様な属性の利用者に対する利便性の向上を図る。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

厚生労働省が運営する「しょくばらぼ」「日本版O-NET」の活用が労働移動の鍵を握っています。

日本版O-NETってナニ?

7.多様性の尊重と格差の是正

(1)最低賃金

〇 最低賃金について、昨年は過去最高の引上げ額となったが、今年は、全国加重平均1,000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論をいただく。

〇 また、地域間格差の是正を図るため、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる。

今夏以降は、1,000円達成後の最低賃金引上げの方針についても、新しい資本主義実現会議で、議論を行う。

三位一体の労働市場改革の指針(案)
日本の労働者の賃金はなぜ低いまま? 改善策は??

(2)中小・小規模企業等の賃上げに向けた環境整備等

〇 中小・小規模企業の賃上げには、成長と“賃金上昇”の好循環を実現する価格転嫁対策や生産性向上支援が不可欠であり、こうした取組を通じて、地域の人手不足や国際的な人材獲得競争に勝てるようにする。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

そのほかに、「適切な価格転嫁対策や下請取引の適正化の推進」「中小・小規模企業の生産性向上支援策の推進」などについても語られています。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

(3)同一労働・同一賃金制の施行の徹底

〇 同一企業内の正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を禁止する同一労働・同一賃金制の施行後も、正規雇用労働者・非正規雇用労働者間には、時給ベースで600円程度の賃金格差が存在する。

同一労働・同一賃金制の施行は全国47か所の都道府県労働局が実施している。全国に321署ある労働基準監督署には指導・助言の権限がない。同一労働・同一賃金の施行強化を図るため、昨年12月から、労働基準監督署でも調査の試行を行い、問題企業について、労働局に報告させることとした。

〇 600円程度の賃金格差が非合理的であると結論はできないが、本年3月から本格実施された労働基準監督署による上記調査の賃金格差是正への効果を見て、年内に順次フォローアップし、その後の進め方を検討する。この際、必要に応じ、関係機関の体制の強化を検討する。

同一労働・同一賃金制は、現在のガイドラインでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の比較で、非正規雇用労働者の待遇改善を行うものとなっているが、職務限定社員、勤務地限定社員、時間限定社員にも考え方を広げていくことで再検討を行う。なお、同一労働・同一賃金制は、外国人を含めて適用されることに改めて留意する。

三位一体の労働市場改革の指針(案)
2021年4月からすべての企業に適用された「同一労働同一賃金」について

そのほかに、「女性活躍推進法の開示義務化のフォローアップ」「キャリア教育の充実」「外国人労働者との共生の推進」「国家公務員の育成・評価に関する仕組みの改革」についても語られています。

三位一体の労働市場改革の指針(案)

人を大切にする会社か?見極めのヒントとコツ 〜「男女の賃金の差異」公表の義務化について〜

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