専門業務型裁量労働制改正(対象業務の拡大・本人の同意取得の義務化)の方向性とポイントを解説します

こんにちは、Gene-K(@SmileWork_LAB)です。

専門業務型裁量労働制という働き方、ご存じでしょうか?

そもそも、この制度が適用されている労働者数が少ないので、多くの方々にとっては、あまり馴染みのない働き方だと思います。

まずは、裁量労働制とは何かをシンプルに説明しておきます。

裁量労働制とは?

法律で定められた働き方に「裁量労働制」という制度があり、この制度が適用された労働者は、実際の労働時間が何時間であっても、労使で決めた「みなし時間」を働いたものとして賃金が支払われることになります。労働基準法における例外中の例外的な制度です。

例えば、1日のみなし時間を9時間と協定している場合、実際に労働した時間が1~2時間であっても、12時間であっても、9時間分の賃金が支給されることになります。

何時に出社(始業)し、どのように仕事を進めるのか、何時間働くのか、何時に退社(終業)するのかといった、1日の時間の配分については、労働者の裁量に任せることが制度適用の原則です。

したがって、会社は、始業・終業の時刻、仕事の仕方などについて具体的な指示はできない、労働時間が少ないことに口出しできない、ということになります。

これは、出退社時刻が自由とされるフレックスタイム制とは違い、決められた期間(1か月から3か月以内)に働くべき労働時間が設定されていませんので、遅刻や早退はもちろん、労働時間不足による賃金控除はありえませんし、それだけで罰則や評価を下げることなどもできません。

裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制
対象業務19の業務の専門業務に限定企画、立案、調査及び分析の業務
制度導入要件労使協定の締結・届出労使委員会の設置
労使委員の4/5以上の多数決議
決議内容の届出
本人の同意不要必要
健康福祉措置必要必要
適用労働者の割合
(2021.1.1時点)
1.2 %0.3 %

専門業務型裁量労働制がどう変わる?

2022年7月27日に行われた第176回 労働政策審議会労働条件分科会の議題のひとつ「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書について(報告事項)の中で、この専門業務型裁量労働制のあり方が問題視され、以降も労働時間制度について継続的に審議が行われてきました。

そして、2022年12月27日の分科会において、審議の結果、以下の内容で結論付けされました。

対象業務

① 企画業務型裁量労働制や専門業務型裁量労働制の現行の対象業務の明確化を行うことが適当である。

銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務について専門型業務型裁量労働制の対象とすることが適当である。

②の「銀行又は証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務」について専門業務型裁量労働制の対象とすることが適当である、としていますので、法改正により19業務に新たな業務が加わることになるでしょう。

(1) 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2) 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
(3) 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6) 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7) 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8) 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10) 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12) 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13) 公認会計士の業務
(14) 弁護士の業務
(15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16) 不動産鑑定士の業務
(17) 弁理士の業務
(18) 税理士の業務
(19) 中小企業診断士の業務

対象業務が新たに追加されるのは、2003年の「(12) 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務」以来です。

本来であれば、政府が強力に推進してきた働き方改革法案の目玉のひとつとして、もっと早くに裁量労働制の見直しが行われるはずでしたが、皆さんもご記憶の、平成25年のあの厚生労働省の杜撰な大失態により、これまでひっそりとその影を潜めていたのが実際です。

〇 仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量に委ね、自律的で創造的に働くことを可能とする制度である裁量労働制については、制度の趣旨に沿った対象業務の範囲や、労働者の裁量と健康を確保する方策等についての課題が以前より指摘され、働き方改革関連法の検討に併せ、見直しに向けた検討が進められていた。

〇 そうした中で、平成 25 年度労働時間等総合実態調査の公的統計としての有意性・信頼性に係る問題が発生し、働き方改革関連法の国会審議を踏まえ、裁量労働制については、現行の専門型及び企画型それぞれの適用・運用実態を再調査した上で、制度の適正化を図るための制度改革案について検討することとされた。

これからの労働時間制度に関する検討会報告書 報告書(令和4年7月 15 日)

さて、問題は ① の「現行の対象業務の明確化を行うこと」です。

専門業務型裁量労働制の適用対象とされている現行の19業務が、これからの時代に合っているかどうかという問題と、今の時代に置き換えて明確化(再定義)することにより、その対象業務が拡大する可能性があるのでは?と容易に想像できるということです。(当然そうしたいという意図があるとも思えますが…)

例えば、専門業務型裁量労働制の19業務の中のIT関連業務。(かつて私も身を置いたIT業界は、もともと裁量労働制の適用解釈が極めてグレーだったりします… )

法令では、「 (2) 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」を適用対象としています。

そして「情報処理システム」を以下のように定義付けしています。

「情報処理システム」とは、情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいうものであること。
「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(i) ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(ⅱ) 入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(ⅲ) システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。

プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること。

間違いではないのですが、開発のフロー自体の説明が古典的過ぎて、昨今の開発手法とかを考えても・・・

また、かつてのプログラミングと、昨今のAIやロボットなどのプログラミングの専門性は別物とし、さらに政府が積極的に推進するDX化を実現するためには、この領域の適用業務を拡大解釈し、範囲を広げていくことは、政府の政策を見ても可能性大です。

私としては、今回の専門業務型裁量労働制の改正の一番のポイントはここにあると思います。情報処理に限らず、他の業務も同様です。

改正法として、厚生労働省(政府)が、ここを具体的にどのように明確に表現するのか。しっかりと注目すべきポイントです。

本人同意の義務化等は当然のこと

対象業務以外にも、いくつかの問題点が指摘され、これらも法制化されることになるでしょう。

労働者が理解・納得した上での制度の適用と裁量の確保

(対象労働者の要件)

〇 専門型について、対象労働者の属性について、労使で十分協議・決定することが望ましいことを明らかにすることが適当である。

〇 対象労働者を定めるに当たっての適切な協議を促すため、使用者が当該事業場における労働者の賃金水準を労使協議の当事者に提示することが望ましいことを示すことが適当である。

〇 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更しようとする場合に、使用者が労使委員会に変更内容について説明を行うこととすることが適当である。

(本人同意・同意の撤回)

専門型について、本人同意を得ることや同意をしなかった場合に不利益取扱いをしないこととすることが適当である。

〇 本人同意を得る際に、使用者が労働者に対し制度概要等について説明することが適当であること等を示すことが適当である。

〇 同意の撤回の手続を定めることとすることが適当である。また、同意を撤回した場合に不利益取扱いをしてはならないことを示すことや、撤回後の配置や処遇等についてあらかじめ定めることが望ましいことを示すことが適当である。

(業務量のコントロール等を通じた裁量の確保)

〇 裁量労働制は、始業・終業時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを示すことが適当である。

〇 労働者から時間配分の決定等に関する裁量が失われた場合には、労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することを示すことが適当である。

これまでにも指摘されたとおり、裁量労働制は長時間労働になりやすく、健康障害防止のための措置を義務化されていたのですが、過重労働による健康障害の予防策をさらに一歩進めて、専門業務型にも企画業務型同様、本人同意を義務化することになります。

専門業務型裁量労働制の適用は、本人の同意なく労使の協定のみで可能としていた点は、名ばかり管理職が生じる背景とよく似ており、残業代削減のための「名ばかり裁量労働」の問題の要因にもなっていたわけですら・・・

もっと早くに、企画業務型裁量労働制や高度プロフェッショナル制度と同様、本人同意を義務化すべきであったと思います。むしろ、これだけでも早急に改正すべきです。

これからの労働時間制度に関する検討会報告書 参考資料1(2022年7月)の中で、専門業務型裁量労働制の場合でも、本人同意を要件としている事業場割合が 46.3%と半数近くありましたので、経営者の人材活用方針が2極化していたことがわかります。

会社を見るうえで大事なポイントだと思います。こうした情報もホームページなどに公表することを義務化することも、適正な裁量労働制の実施に必要な施策だと思います。

労働者の健康と処遇の確保

(健康・福祉確保措置)

〇 健康・福祉確保措置の追加(勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の適用解除)、医師の面接指導)等を行うことが適当である。

〇 健康・福祉確保措置の内容を「事業場における制度的な措置」と「個々の対象労働者に対する措置」に分類した上で、それぞれから1つずつ以上を実施することが望ましいことを示すことが適当である。

〇「労働時間の状況」の概念及びその把握方法が労働安全衛生法と同一のものであることを示すことが適当である。

(みなし労働時間の設定と処遇の確保)

〇 みなし労働時間の設定に当たっては対象業務の内容、賃金・評価制度を考慮して適切な水準とする必要があることや対象労働者に適用される賃金・評価制度において相応の処遇を確保する必要があることを示すこと等が適当である。

裁量労働制の永遠の課題は「みなし時間」の設定にあります。

現状は、労使自治に委ねられていますが、本人同意の義務化により、専門業務型裁量労働制の闇は少し晴れそうです。

裁量労働制を導入している会社については、新卒・中途採用の区別なく、募集要項に「みなし時間」や「裁量についてと特別な手当の有無」等の記載を義務化すべきだと思います。求人の際の固定残業代の有無と有りの場合の金額と時間の記載義務と同様に。賃金は生活に直結する最重要事項ですので。

労使コミュニケーションの促進等を通じた適正な制度運用の確保

(労使委員会の導入促進と労使協議の実効性向上)

〇 決議に先立って、使用者が労使委員会に対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について説明することとすることが適当である。

〇 労使委員会が制度の実施状況の把握及び運用の改善等を行うこととすること等が適当である。

〇 労使委員会の委員が制度の実施状況に関する情報を十分に把握するため、賃金・評価制度の運用状況の開示を行うことが望ましいことを示すことが適当である。

〇 労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とするとともに、労働者側委員の選出手続の適正化を図ることとすること等が適当である。

〇 専門型についても労使委員会を活用することが望ましいことを明らかにすることが適当である。

(苦情処理措置)

〇 本人同意の事前説明時に苦情の申出方法等を対象労働者に伝えることが望ましいことを示すことが適当である。

〇 労使委員会が苦情の内容を確実に把握できるようにすることや、苦情に至らないような運用上の問題点についても幅広く相談できる体制を整備することが望ましいことを示す
ことが適当である。

(行政の関与・記録の保存等)

〇6か月以内ごとに行うこととされている企画型の定期報告の頻度を初回は6か月以内に1回及びその後1年以内ごとに1回とすることが適当である。

〇 健康・福祉確保措置の実施状況等に関する書類を労働者ごとに作成し、保存することとすることが適当である。

〇 労使協定及び労使委員会決議の本社一括届出を可能とすることが適当である。

これまでの流れで考えれば、専門業務型裁量労働制の適用基準と運用ルールを、企画型裁量労働制の水準に引き上げることが常識的な対応(法改正)になるかと思います。

となると、専門型と企画型をわざわざ分ける必要があるのかどうか? 対象業務の違いだけで考えれば、専門業務型裁量労働制一本化という発想もありだと思いますよね。

早ければ、2024年に改正の運びとなるかもしれません。そして、対象業務の明確化と拡大については、その内容によって大きな論争を招くことになりますし、これきっかけで、これからの働き方の考え方、あり方がドミノ倒し的に激変していく可能性も秘めています。

また、これからのキャリアと働き方(働きがい)を考えるうえでの政府(日本国)から国民に対しての重要なメッセージにもなりそうです。日本で働く外国人労働者にも当然適用されるわけですから。

VUCAな今の時代は、いつ、何がどう変わるか分かりません。現状を見極め、常に将来予測をしていくことが働いていくうえでも重要です。

改善になるのか? 改悪に陥るのか? ・・・ 一緒に、しっかり、ウォッチしていきましょう!

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