
こんにちは、Gene-K(@SmileWork_LAB)です。
今回は法律の専門家・人事担当者でも誤解しがちな「傷病手当金をもらいながら育児や介護休業の取得(休業給付金の受給)は可能」についての解説(関連する行政機関に確認済み)です。
高ストレス社会と言われる現代において、うつ病など精神的な疾患により休職や離職を余儀なくされる人は後を絶ちません。
また、少子化・高齢化・核家族化が進行する中、病気の治療や療養をしなら育児や介護の必要に迫られるケースも決して珍しいことではありません。
うつ病に限らず、私傷病(業務や通勤によるもの以外)により就労が困難となってしまった場合、(賃金の支給が停止となった場合には健康保険から)傷病手当金を受給しながら治療・療養に専念するというのが一般的です。
これは、健康保険の被保険者として支給要件を満たしていれば当然に受けられる生活保障です。

この傷病手当金を受給している期間中に
〇 育児・介護休業法(勤め先の「育児・介護休業規程」)に定める育児休業や介護休業を同時に取得できるのか?
〇 その場合、育児休業給付金や介護休業給付金も傷病手当金と同時に受給することができるのか?
という疑問・質問をよく耳にします。
現に傷病手当金を受給している方からすると、そもそも就労不能で勤め先を休んでいるのに、その休職に重ねてさらに育児や介護休業の申出が勤め先で認められるのか? ・・・不安ですよね。
結論からいうと 傷病手当金の受給中であっても育児・介護休業法に定める基準を満たしてさえいれば育児休業や介護休業の取得も休業給付金の受給も可能 です。
なぜなら、それぞれの法律(保険者)が異なるので、それぞれの基準で可否が判断されるのです。
育児・介護休業は「育児・介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)」によりその基準が定められています。
傷病等で休職・欠勤している場合といえども、法律に定める適用対象者であり、育児や介護ができるのであれば、労働者は、事業主に休業利用を申し出し休業することができます。また、申し出により法律上必要な措置を講じることは事業主(会社)の義務となります。
傷病手当金の支給は、健康保険法の定めにより保険者(協会けんぽ・健康保険組合)が実施します。
一方で育児・介護の休業は、育児・介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)によりその基準が定められ、休業給付金の支給の決定に関することは雇用保険法に定めによりハローワーク(職業安定所)が実施しています。
また、健康保険法にも雇用保険法にも傷病手当金と育児や介護の休業給付金について調整する規定はありません。したがって、法律上、傷病手当金と育児や介護の休業給付金は併給可能となります。
なお、傷病手当金は健康保険法の定めにより報酬(賃金)との調整が規定されていますが、育児や介護の休業給付金は報酬(賃金)には該当しないため調整されることなく受給することができるのです。
また、傷病手当金は退職時に受給条件を満たしていれば、退職後も継続して受給することができますが、育児・介護の休業は退職するとその時点で適用対象外になり休業が終了となりますので、育児・介護の給付金の支給も当然に停止となりますので注意が必要です。
傷病等で休職・欠勤し傷病手当金を受給しながら育児や介護の休業を申し出た際、会社(経営者や人事担当者など)から以下のような対応(発言)があった場合は間違いであり注意が必要です。
会社の休職制度規定による休職期間中なので、育児・介護休業は取得できません。
勤め先によっては病気の治療・療養のための休職制度を設けている場合があります。
ただし、休職制度は労働基準法など法律によって定められたものではなく、会社の恩恵的な福利厚生制度のひとつにすぎません。
したがって、会社の休職制度よりも法律(育児・介護休業法)の効力の方が強く、当然に優先されます。休職制度の取得を理由に育児・休業の申し出を拒否することは重大な法律違反になります。
会社が定める休職制度に、休職期間中は育児・介護を取得することはできないものとする、というような規定を設けることは育児・介護休業の取得を妨げるものとして違法性が問われます。(反対に、育児・介護休業中は休職制度を利用できないことを規定することは可能です。)
また、育児・介護休業の申し出を理由に休職期間満了で退職にするといった不利益な取り扱いをすることは法律により禁止されています。
ちなみに、育児・介護休業法を下回る育児・介護休業規定を設けている場合は、その下回る部分は当然に無効となり法律の基準が適用されます。

傷病手当金は就労不能により支給されるものです。
就労不能の場合、育児や介護もできないと思いますので、申し出は承認できません。
経営者や人事担当者がこのような主観的な判断と単眼的な視点でモノゴトを捉える会社のあるあるです。怖いですね。
育児・介護休業法に、就労不能を適用対象外にする規定はありません。また、仕事を行う心身の状態と育児や介護を行う心身の状態は同じではありません。仕事はできないが育児や介護はできる状態の方が多いかもしれません。これは、当然、その方のケガや病気の程度や状態によっても異なります。
承認できない明確な客観的事実がない限り申し出を拒むことはできません。
傷病手当金(賃金の2/3)と育児・介護休業給付金(賃金の50%)を併給すると、通常の賃金額を上回るのでおかしい。どちらかを選択すべき。
先述のとおり、法律と保険者が異なるので、そもそもそれを合算し賃金額と比較する必要などありません。育児休業の場合は休業給付金だけでなく社会保険料の免除の措置もあります。どちらかを選択する必要もなく、適用基準に合致すればどちらも受給できるのです。
会社の対応に「おかしい」「あやしい」「わからない」ことがありましたら、最寄りの労働基準監督署の労働相談窓口に、育児休業や介護休業等の休業制度に関することは都道府県労働局雇用環境・均等部(室)にご相談することをおススメします。