2022年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果(経団連)から日本企業の人事労務の方向性(トレンド)を確認しておきましょう!:パート①

こんにちは、Gene-K(@SmileWork_LAB)です。

日本企業の人事労務の方向性は、多様化や柔軟性の確保、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、DX(デジタル技術の活用)などに注力しています。人材育成や評価制度の見直し、グローバル人材やDX人材の育成と活用なども重要な課題となっています。

もちろん、企業によって取り組みの進み具合や方針の差はありますが、目指している方向性(トレンド)は概ね合致しています。(その差が、働きがいの差にもなるわけですが… )

2023年1月17日に経団連(日本経済団体連合会)により「2022年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」が公表されています。

日本を代表する企業群が、どこに課題を感じ、どのような施策を講じ、どこを目指しているのか。皆さんの勤め先との違いはどこにあるのか。時折でも、こうしたデータを活用し、将来に備えて、評価・分析しておくことは、変化の激しい今の時代を生きるために大事なことです。知らぬ間に、井の中の蛙にならないためにも。

また、企業経営のトレンドを掴んでおくことは、就活・転職の際の企業研究においても役立ちます。会社の本質を見抜くためにも。

以下、調査結果の中から、ポイントになるデータを一部引用し、分析してみます。あくまでも私見ですので、その点はご容赦ください。

2022年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果

調査概要は以下のとおり。

ポイントは、企業の人事労務担当等(労働者)ではなく、企業の労務担当役員が対象の調査ということです。企業経営の要職にある人たちの回答率が思ったよりも低いのは、なんとも残念に思えますが。

1.調査目的:春季労使交渉・協議の結果や、人事・労務に関するトップ・マネジメントの意識・意見などを調査するため、1969年から毎年実施している。本調査結果は、主に「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)の重要な参考資料として活用している。
2.調査対象:経団連会員企業(計1,512社)の労務担当役員等
3.調査時期:2022年9~11月
4.集計状況:回答社数387社(回答率25.6%)このうち集計可能な374社を対象とした。
<内訳>
産業別:製造業178社(47.6%)、非製造業196社(52.4%)
規模別:従業員500人以上320社(85.6%)、500人未満54社(14.4%)

最近の物価上昇への対応について

未曾有の物価高騰に企業(経営者)がどのように対応するのか?興味深いですね。

調査時点では未定が最も多く 61.2%、次に 今後対応する予定(次回の賃金改定時)が 18.7%すでに対応済が 8.7%今後対応する予定(次回の賃金改定前)が 4.1%、対応する予定なしが 7.3%となっています。

最近の物価上昇への具体的な対応方法については

最も多いのがベースアップで 77.2%、次に、賞与・一時金支給時 29.7%手当(毎月支給)の新設・増額 11.9% です。

ベースアップとは、ベース(基本給)に対する昇給です。基本給を増額することで、残業代の単価も増加し結果として残業代も増えますし、基本給を基礎として賞与や退職金を算定している場合は、それらも増えることになります。

基本給の増額分より手当額がかなり多いと、一見、そちらの方が優しい会社の対応に思われがちですが、年収(生涯賃金)で計算すると、逆転する場合があります。

特に、景気対策手当というような名目の手当の場合、一時的・臨時的な支給の場合もありますので、景気が回復した場合、支給停止になることも想定されます。就業規則(賃金規定・給与規定)で支給基準等を確認しておく必要があります。また、手当といえども、毎月固定して支給する場合は、残業代の基礎給与に含める必要がありますので、その点も要チェックです。

賃金以外で、今後、重視したい項目

労働生産性の向上策(業務遂行方法の見直しやデジタル化の推進等)39.5%ダイバーシティ&インクルージョンの推進策(多様な人材の活躍支援)38.7%人材育成施策の拡充(自己啓発・能力開発の支援など)36.6% と、競争力強化の項目がこぞって高いです。

その次に、社員の健康保持・増進策(メンタルヘルス対策、健康づくりへの支援・助成など)27.0%、時間外労働の削減 26.2% という結果になっています。

経営戦略としてのDX化と、それを推進するDX人材の必要性がハッキリ結果に現れています。

今後ますますDX人材の必要性が高まっていくのは間違いありません。

なぜ「ⅮX人材(デジタル人材)」なのか? 政府の政策から読み取る、これからの時代に必要なスキルとキャリア、マインドについて

ちなみに、労働者(労働組合)側にとって関心度の高い、テレワーク(在宅勤務制度やサテライトオフィスなど)の導入・拡充(12.8%)、年次有給休暇の取得促進(11.0%)、育児関連施策の拡充(5.8%)、介護関連施策の拡充(3.8%)、社内外のハラスメント対策の拡充(3.2%)は、低位となっています。

重要なのは、このバランス(ワーク・ライフ・バランス)。企業経営者が、どこに重点を置いた経営思想を持って、従業員に何を期待し、どのように処遇するのか。それによって働きがい(エンゲージメント)が大きく変わります。

「働き方改革フェーズⅠ」に関する取組み

これも興味深い調査結果です。

「働き方改革フェーズⅠ」は「長時間労働削減や年休取得促進等、労働投入量の効率化などによる生産性向上の取組み」と定義され、どのような取り組みを行っているか、どの取り組みが効果が高いのかの調査です。

まず、取り組みとして多いのは・・・

① 年休取得施策の実施(年休取得奨励日の設定、年休の計画的付与制度の活用等)91.2%

業務フローの見直し、業務効率化のマネジメント(不要な業務の削減、社内手続き/提出書類の簡素化、部下の進捗状況の把握・優先順位の指示等)88.2%

③ 長時間労働となっている職場へのフォロー(経営会議等での労働時間データの公表と課題のある部署への指導、部署ごとの要因分析、再発防止策の検討等)88.0%

④ 柔軟な労働時間制度の活用(フレックスタイム制、変形労働時間制、裁量労働制等)80.2%

ICT、RPA、AI等を活用した業務効率化 79.2%

⑥ 経営トップの働き方改革に関するメッセージ(効率的な業務遂行の奨励等)73.8% となっています。

いっぽう、効果の高い取り組みとして評価しているのは・・・

業務フローの見直し、業務効率化のマネジメント 48.8%、

② 長時間労働となっている職場へのフォロー 44.1%

ICT、RPA、AI等を活用した業務効率化 41.1%

④ 柔軟な労働時間制度の活用 40.0%

⑤ 経営トップの働き方改革に関するメッセージ 29.0%

⑥ 年休取得施策の実施 27.4% となっています。

こちらを見ても、DX等による業務の効率化に積極的に取り組む姿勢が明らかです。

本来、最も重要だと思われる『経営トップの働き方改革に関するメッセージの実施率と効果が低い』というのが、なんとも気になります。労使コミュニケーションに難あり、でしょうか?

社員のエンゲージメントの現状

エンゲージメント(社員の会社に対する愛着心や思い入れ)について、経営者層がどのように把握しているかの調査です。

・全体的に高い状況にある 18.2%

・高い層と低い層がある(まだら)53.5%

・全体的に低い傾向にある 10.2%

・わからない(調査していない)18.2%

メディアなどで話題のとおり、日本における労働者の仕事への充実感・達成感(働きがい)の低さが如実に現れています。

あと、労務担当役員等が「わからない・調査していない」と回答している点は、衝撃的(高い状況と同率!)な結果ですね。

人的資本経営とか、女性活躍推進法による男女の賃金の差異の公表とか、男性の育児休業取得率の公表とか、あちらこちらの分野でバラバラと情報開示の義務化を進めていますが、働く側(求職者側)にとって、一番インパクトあるのは、このエンゲージメント調査の結果の公表ではないでしょうか? 社員(退職者)が自社を評価するクチコミ系のサイトがもてはやされているように。

この際、現に働く社員のエンゲージメントを統一項目で評価、点数化し、そのスコアを公表する制度にしたほうが、リアルな人的資本経営の開示になり、本当に必要な「働き方改革」に繋がるのではないかと思います。

そうすれば、労務担当役員等の当事者が「わからない」なんて言ってられないでしょうし・・・

さらに、「エンゲージメントが高い層」を調査しています。

・シニア管理職 81.4%

・シニア非管理職 30.4%

・ミドル管理職 74.9%

・ミドル非管理職 24.3%

・中堅層 24.0%

・若手層 28.9%

・現場業務(製造現場や販売現場)に従事する社員 13.7%

・契約社員(有期社員)6.8%

・外国人社員 5.7%

・その他 9.1%

エンゲージメントが高いのは管理職だけですね。本音か忖度かはわかりませんが。それ以外は、全然です。外国人社員のエンゲージメントの低さが際立ってます。グローバル化なんて程遠いのよく分かります。

社員のエンゲージメントを高める施策」の調査データです。70%以上のものをピックアップしました(複数回答可)。さて、皆さんの勤め先ではいかがでしょうか。何かされていますでしょうか?

・目標や考課・処遇等に関する社員と上長との対話 90.1%

・企業理念・事業目的の浸透 89.1%

・育児、介護、病気治療と仕事の両立支援 88.8%

・業務のデジタル化の推進 79.5%

・場所・時間に捉われない柔軟な働き方の推進 79.2%

・健康経営の推進 75.6%

・社員の自己啓発を支援する制度の導入・整備 75.2%

・社員と経営トップ・役員との対話 74.6%

・ダイバーシティ&インクルージョンの推進 73.6%

この調査は、労務担当役員等を対象に行なっていますので、実施(効果あると評価)しているけど、その相手の労働者側がどのように評価しているかは定かではありません。ひとつ言えるのは、実施している(効果があると思っている)けれども、管理職以外の社員のエンゲージメントは高くない!ということです。

現場業務に従事する社員のエンゲージメントを高める施策」としての調査データです。こちらも70%以上のものをピックアップしました(複数回答可)。

・表彰・報奨の実施 88.8%

・安全かつ効率的な就労環境の整備 78.5%

・自社の経営や事業の状況等に関する情報の共有 76.0%

・資格取得等を支援する施策の実施 74.7%

・経営トップや社員同士の対話の推進 70.8%

社員と経営トップ・役員との対話」については、その具体的方法についてさらに深掘りし、調査(複数回答可)しています。これは経団連も重要視しているからの調査ではないでしょうか。コロナ渦においては特に大事なことですので。

ビデオやメールによるメッセージの発信 77.9% ー ③

経営トップの職場訪問、意見交換 77.0% ― ①

経営トップと社員(年代別など)のタウンミーティングの開催 64.3% ー ②

・経営トップの考え方を説明する冊子の作成・配布 46.9%

・チャットツール、社内SNSによる交流 31.5%

・定期的な全社員ミーティング(オンライン含む)の開催 31.0%

・その他 6.1%

実施している中で、特に注力しているという項目の中から上位3つに番号付けしておきました。

こちらも、経営者の自己満足では意味がありません。実施した結果、社員の反応(意識や行動)がどう変わったのか、意見交換で把握した課題について経営者がどのようなアプローチをしているのか、そこが一番重要です。その結果が、やはりエンゲージメントの向上に反映されるはずです。

激変する社会環境の中、経営者から何の情報発信(メッセージ)もないのは、不安と不満によるモチベーションの低下以外に何もないことは言うまでもありませんが。数値目標だけが上から降りてくる組織も然りです。

今回は、エンゲージメントの調査結果までを見ておきました。続きは、また次回に。

以上、引用は「一般社団法人 日本経済団体連合会 公式サイト」http://www.keidanren.or.jp/